市民参加型予算の動向

市民の政治への関心が年々薄れています。投票率は年々下がり、政治家志望も少なくなり、地方議会では議員の無投票当選が過去最高となっています。議会民主制が危うい状況に陥っています。このままでは、特定の意図をもった少数の有権者によって政治が決められてしまう恐れが高まります。投票率が低かろうと、選ばれた議員は代表ですし、議会の決定が民意となります。

選挙における“棄権”は、実は“危険”な結果を招くこともあります。とは言っても、現代の民主国家は代表による間接民主主義は変えられません。選挙権が18歳に引き下げられましたが、若年層の投票率は高齢者層に比べれば低いままです。またたとえ投票率を上げたとしても、しっかりした意見を持たずに投票すれば世情に流された結果となるかもしれません。東日本大震災後の原発をめぐる是非の議論は、物事の真実をどう見極めるかわれわれに投げかけた問題でした。改めて中立的な情報をもとにした討議の重要性に気づかされたのではないでしょうか。

世界では、直接民主主義の1つの手段である市民参加予算(参加型予算)が一定数で定着しているように思われます。市民参加予算は、1989年にブラジルの地方都市ポルトアレグレ市で始まった取組みで、その成果が評判となりこれまで世界で1万事例とも数えられています()。市民参加予算は、公募の市民が自治体の予算編成に直接参加して政策決定に関わるのですが、その過程で行政・議会と市民との討議の場が設けられ、予算を理解した上で市民参加が行われます。

もちろん公募の市民という限られた場合によっては偏った市民が予算編成に関わる取組みには批判もあり、否定する人も多くいます。それでも世界で広まっているのは、市民参加予算が行政・議会と市民との回路になり、市民の側にも討議の場が提供されるからです。 韓国では2011年に大統領令で全自治体に「住民参与予算制」の導入が義務付けられました。国が法律で市民参加予算を義務付けることは地方自治の観点から問題も指摘されますが、投票率が低下するなかで、危うい間接民主主義を補完する直接民主主義の1つの手段として市民参加予算の役割は大きいのではないでしょうか。

 市民ガバナンス機構では、わが国での市民参加予算の導入に向けて活動をしています。詳しくは、『市民参加の新展開~世界に広がる市民参加予算』(イマジン出版)を参照ください。