月刊『地方財務』2025年5月号に、当法人理事 日野善弘の記事が掲載されました。
観光立国へのシナリオ・オーバーツーリズムの対策等を探りながら(3)
―各論①:「PRIME観光都市・東京」の実現へ観光税制の抜本的見直しを
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東京都は「PRIME観光都市・東京」の実現を掲げ、観光産業の復活と持続的な成長を目指す実行プラン(2024-2026)を策定しました。このプランでは、訪都外国人観光客数や消費額の大幅な増加を目標とし、観光需要の積極的な取り込み、持続可能性の確保、観光産業基盤の強化を基本方針としています。しかし、観光客の急増に伴うオーバーツーリズム問題への具体的な対応策や支援策は十分とは言えず、今後は量的拡大から質的向上、すなわち観光資源の価値や観光客の満足度を高める政策への転換が求められています。そのために、政府は2023年に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を策定し、観光客の集中による混雑やマナー違反への対応、地方部への誘客・分散、地域住民との協働を三本柱とした支援体制を整備しています。
東京都内の各地域では、民泊の増加による騒音やゴミ問題、公共交通機関の利便性向上、観光客の滞留防止、秩序あるまちづくり、ゴミ処理やタバコのポイ捨て対策など、多様な課題に対して独自の取り組みが進められています。例えば、千代田区や豊島区、北区では民泊に関する上乗せ条例や営業制限を設け、地域住民とのトラブル防止に努めています。台東区ではコミュニティバス「めぐりん」の運行や多言語対応を強化し、観光と住民の利便性向上を図っています。新宿区新大久保では多国籍店舗の増加に伴う混雑やゴミ問題に対し、協議会の設置やルールの周知、飲食スペースの整備などを行っています。渋谷区ではハロウィーン時の混雑や犯罪対策として条例改正や路上飲酒禁止、広告による啓発活動を実施し、秩序あるまちづくりを推進しています。原宿表参道ではスマートゴミ箱の導入などICTを活用した先進的なゴミ処理対策が進められています。中央区や台東区では公衆喫煙所の設置やマップ配布など、喫煙マナーの向上に取り組んでいます。
これらの対策を持続的に実施していくためには、各自治体が自主財源を確保することが不可欠です。東京都は2002年に全国に先駆けて宿泊税を導入し、観光振興施策の財源としていますが、宿泊税の課税範囲や税率の見直し、使途の明確化が急がれています。また、欧州の主要都市では観光税の税収をオーバーツーリズム対策や観光抑制に活用しており、東京都も観光振興だけでなく、オーバーツーリズムへの本格的な対策と予算を講じる必要があります。
本稿では、観光政策の立案と実行の主体が各地域にあることを指摘し、観光税の導入を通じて安定した自主財源としてオーバーツーリズム対策や観光振興に活用することで、観光客と住民の共生、質的向上を重視した観光政策への転換を提言しています。